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Musement Fair 楽曲解説 14. ジオラマ feat. 茂木ミユキ

MUSEMENTの歌姫達の明らかな共通点は「病み付きになる声の持ち主」なのですが、「日本人には珍しい高周波とゆらぎを持つ、100万人に1人の声質を持つ歌手」と評されている通り、茂木ミユキさんも強力な病み付き感のある貴重な声の持ち主です。通常、歌モノのレコーディングは歌入れが最後の行程になるかと思いますが、私の場合は歌が入ってからオケのアレンジをいじくりたおします。むしろそこからがMUSEMENT作業の本番なのでして、メロディを最大限に輝かせてくれた歌姫達のパフォーマンスを、今度は私が最大限に輝かさせていただく作業です。茂木さんの歌入れの段階では、オケの様子はこの曲のデモバージョン「Hotel New Diorama」とさほど変わらない状態でしたが、歌が入った後の作業でここまで激変。それほどに、歌声と歌詞から与えられるインスピレーションは大きいのであります。茂木さん所有のアナログ電子楽器「SUZUKI Q-Chord」の音がどうしても欲しかったので、お願いしてスタジオに持って来ていただきました。Aメロやアウトロで聞こえる「キラキラキラーン」というグリッサンド音がQ-Chordの音です。この楽器でしか出ない、独特の懐かし未来サウンド。茂木さんの優しい母性が溢れるようなプレイでもってアウトロがQ-Chordのサウンドに包まれた時(2回重ねて左右に広げた)、この曲をアルバムのラストに持ってくることを即決。「Hotel~」と聴き比べると分かる通り、自然に歌が乗るようにメロディを茂木さんがうまく改良してくれました。これはこの曲に於いて重要なポイントです。ガラスのジオラマ 回転するパノラマドリーミー極まりなく、メロディとの相乗効果がこの上ない言葉。武田カオリさんの「ストーリーズ」の歌詞もそうですが、韻を踏んでいる歌詞はそれだけでグルーヴが生まれます。MUSEMENTの歌姫の皆さんは不思議と、大きな世界から小さな自分を俯瞰的に見ているような歌詞を書いてくれるのですが、この茂木さんの作詞と歌唱にはそのエッセンスがシンプルな中に凝縮されている気がしまして、それがこのドリーミーな音世界を導き出してくれました。女性が持つ母性のようなものに包まれている幸福感といいますか、、よってMusement Fairの最後を飾るにふさわしい曲となったのでありました。締めはSUZUKI Q-Chordの逆回転音。

Musement Fair 楽曲解説 13. Musement Fair feat. 野見山睦未

2010年に曲が出来た時、昭和の歌番組や娯楽番組のオープニングっぽさを感じたので「シオノギ ミュージックフェア」をもじって「ミューズメント・フェア」と仮タイトルをつけまして、またアルバムが出せるならばこれをアルバムタイトルとしよう、とこの時点でざっくりと決めていました。「ミュージックフェア」、サイモン&ガーファンクル「スカボロー・フェア」、ビージーズ「メロディ・フェア」などからの擦り込みか、私の中では「Fair」という単語は昭和ノスタルジーとリンクしているのです。(「シオノギ ミュージックフェア」が現在も続いている番組という事をつい先日になって知りました。遠い昔に終わった昭和の番組だと思っていたのです)野見山さんに最初にデモを送った時点では4つ打ちビートのシンセポップといった有様だったのですが、データや意見のやり取りを続ける中で、古いドタバタ喜劇アニメ(トムとジェリーなど)感を目指す方向に。さらに野見山さんが子守唄を想定して書いてくれた歌詞やコーラスのアイデアから、私の中で「大草原の小さな家で眠る子供の夢の中で聴こえる音楽」というイメージが広がりまして、そういったコンセプトの元に作成。MUSEMENT流のサイケデリックという事になりましょうか。コード進行にはヴィンス・ガラルディによる「スヌーピー」の劇中曲「Peppermint Patty」の影響あり。野見山さんから「使えたら使ってください」とコーラスのアイデアの奔流がドドドっと送られてきまして、それを私がオニ編集したコーラスワークが大フィーチャーされています。「寝息」を表現したという野見山さんの史上空前の試み。なんというセンス。一曲で野見山さんの様々な声が楽しめる点でも貴重な記録なのでは。「♪セレナーデ~」と歌っている部分がありますが、「セレナーデっていいですね☆」と喜びのメールを送ったところ「セニョリータでも何でもよかったのですが」という冷静な返しにもやられました。メインボーカル (歌詞の部分) は野見山さんの歌を加工して3声のハーモニーになっていますが、ジャズのボーカルグループ的な感じを意識した、これまた凝りに凝ったハモリになっています。すって はいて こずえ 渡る 夜風この一行にやられました。シンプルな言葉で子供の頃の記憶を呼び覚ましてくれます。私の知る限り「こずえ」という言葉を音楽の中で聴いたことないです。「アタックNo.1」の鮎原こずえの名前でしか聞き覚えがない。ずっと忘れていた美しい単語。最後は野見山家のオーブントースターの「チン!」という音で夢から覚めて終わります。

Musement Fair 楽曲解説 12. JERUSALEM feat. 野見山睦未 (cover)

イギリスの第二の国歌とされているほど有名な聖歌ですが、この曲との出会いはもちろんELP (エマーソン, レイク&パーマー) の名作「恐怖の頭脳改革」で、中学生の頃。期せずして今年亡くなったキース・エマーソンさんへの追悼にもなりました(たった今、グレッグ・レイクさんの訃報も…)。「Landslide」と同様、中2時代にもらったものを私なりの表現で恩返し。西洋の宗教音楽に聴かれるようなメロディ、コード、ベースのスペイシーな響きが子供の頃から好きで、「JERUSALEM」のそれが一体どうなっているのかを漸く解明できた記念に、野見山さんにお付き合い頂いてとうとうカバーを作成した次第です。2010年、「Landslide」と同じくロボ声で仮歌を入れたアレンジデモを野見山さんにお送りしたところ電光石火の速さでこの素晴らしいOKテイクを送り返してくれました。これはLocal Busでは聴かれなかった感じの毅然とした歌唱で、貴重な記録になっているかと思います。コーラスパートもロボ声でデモを作っては送り、歌っては送り返してもらい、を繰り返した末の、凝りに凝ったボーカルハーモニーを野見山睦未さんの歌声で楽しめる大エンターテインメント作品となりました。自分で言うのもアレですが、山下達郎さん並みの手間ひまがかかっているのではと思います。「Bring me my arrows of desire」の部分のコーラスと、間奏とエンディングに登場するマーチングドラムは野見山さんによるアイデア。さらに弦ピチカート音によるアルペジオのフレーズには、Local Busの永嶋圭司くんのアイデアも少し取り入れています。Local Busテイストの隠し味がそこかしこに。アレンジに滲み出ているのは、やはりこれも昭和の軽音楽への情景で、ポール・モーリア meets 電子音といった感じでしょうか。幼い頃に母さんに連れて行ってもらったデパートの洋食レストランのBGMで聴いたような (ざっくりしたイメージ)。間奏のハープシコードのメロディなどに顕著に出ているように思います (聖なる歌がなぜこんな事に)。

Musement Fair 楽曲解説 11. アンダースカート feat. 野見山睦未

この曲のみボーカルは野見山さんの自宅録音ではなく、今年の春に東京のスタジオにお招きしての録音。異様にロー・テンションな歌唱が、ユーザーフレンドリーなメロディ(?)に絶妙な歪みを与えており、軽妙な心地よさ。これも野見山さん特有の強力な持ち味です。2010年初頭に「ぼくらが歌を~」のデモを持って鈴木祥子さんに相談に行った時、一緒にこの曲のデモも聴いていただきまして、「 ”What A Fool Believes (ドゥービー・ブラザーズの大ヒット曲)” っぽいですね☆79年ですね!」と感想をいただきました。「79年」は当時の祥子さんと私の合言葉みたいになっていたのでした(笑)。そして野見山さんの歌が入った後、歌を最大限に輝かせるためのアレンジ調整をしていく中で、79年感とはまた違う方向に流れ流れて在るべき姿に落ち着いたのでした。2010年の作業中に野見山さんから届いた歌詞を見て「それしたい」「あれのこと」「スカート吹き上げ」などの意味深でキャッチーな言葉に食いついた私の単細胞がはじき出したタイトルが「アンダースカート」というわけで、タイトルはその時点で即決。僕たちは揺られる 吊り広告のようにと、この世を生きる我々の有様を電車の吊り広告になぞらえる野見山さんの感性が素敵です。
メロディ、抑揚を抑えた歌唱とのブレンドで、遣る瀬なさがにじみ出る素晴らしい作詞。「僕たちは揺られる」から、あてどない転調の旅にさまよい出るのですが、間奏に入るところでちゃんと元のキーに戻るのが、12音階という音楽のシステムの不思議を感じます。見えざる力に導かれた感、というか(音楽理論などをちゃんと習得している人からするとそんな大層なことではないのかもですが)。昔の歌謡曲などではよく使われていた、ラストのサビ辺りでひと盛り上がりさせる常套手段「半音上げ転調」を用いたのは私としては初めての試み。